稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第158回 「貞尾 剛の短竿、短バリスのチョーチン両ダンゴ釣り」

へら鮒釣りはトータルバランスの善し悪しが釣果を左右するといわれている。並んで釣りをしていても釣れる人釣れない人の差が明確に現われてしまうのは、トータルバランスの柱とされるエサ・タックル・アプローチの精度とバランス(組み合わせ)の良否に起因するためなのだ。へら鮒の食いが渋い難時合下の釣りではそのバランスの微妙な舵取りが求められるのは当然だが、その一方で食いが良い好時合下においてもまた、トータルバランスの完成度如何によってはとてつもない釣果の差となって現われることが少なくない。今回は、近年稀にみる高精度のトータルバランスで、高活性時の群がるへら鮒をみごとに支配下においた釣りを紹介する。アングラーは「釣技最前線」初登場のマルキユーインストラクター貞尾 剛。管理釣り場はもちろん、大型野べらをターゲットとする野趣溢れる釣りにも精通するマルチアングラーで、今回披露していただく短竿でのチョーチン両ダンゴ釣りを最も得意とする。実釣フィールドは兵庫県川辺郡猪名川町にある天神釣り池。開始直後からウキの周りに群がる無数のへら鮒に対し自然体で対峙する貞尾。はしゃぐへら鮒とは対照的に落ち着き払った貞尾の研ぎ澄まされたテクニックが炸裂!途切れることなく短竿が弧を描き続けた。
所変われば品変わる!? 関西チョーチン両ダンゴ釣りの基本は短竿、短バリス!
取材早々釣り支度を進める貞尾のタックルに記者の目がとまった。今日のお題はチョーチン両ダンゴ釣りのはずだが、そのハリスが異常に短いのだ。
「時季によっては長竿長ハリスの釣りもやりますが、この時季の天神釣り池でのチョーチン両ダンゴ釣りは規定最短7尺での短バリスの釣り。これ一択で間違いありません。」
支度が整い午前8時に実釣開始。まずはへら鮒をタナに寄せることを目的とし、やや大きめにエサ付けされた圧弱めの1投目が静かに打ち込まれると、そのナジミ際に小刻みな上下動がみられ、ナジミきった直後にいきなり強烈なアタリが現われた。すかさずこれを捉えると、なんと1投目でファーストヒットを決めた貞尾。こうしたことは決して珍しいことではないとでも言いたいのか、涼しい表情で続けて次投を打ち込む。そして圧巻はその後の30分間。朝の好時合もあってか、ダブルを含めて一気に15~16枚を一気に固め釣り。それでも毎投のようにアタリでフィニッシュするので思いのほか空振りも目立ち、貞尾自身も納得はしていない様子。
「食いはまずまずですがカラツンが多いのに加え、ナジミ際にやられる(激しいアタックでエサが持たない)投が多くなったので、ここでタックルセッティングを変更します。」
そう言うとウキをワンサイズアップしてオモリ負荷量を増し、さらにハリを上下共に「セッサ」7号に交換してリスタート。すると目に見えて〝やられる〟投が減り、ウキの動きが整然とし始めると同時に深くナジんだところででる強いアタリでヒットペースが急上昇。しかも釣れてくるへら鮒の型がひとまわり大きくなると、ヒットした瞬間一気に穂持ちまで水中に突き刺さるスリリングな釣趣に、ようやく貞尾の顔に笑みがこぼれた。
「これが天神釣り池のポテンシャル。どうです?凄いでしょう!でも決して楽に釣れているわけではないのです。正直ギリギリのところでへら鮒の寄りと動きをコントロールしている状態なので、1投でも不用意にエサを打ち込んだり、良いアタリにつられてうっかり早切りしたりすると途端にウワズってしまい、あっという間に制御不能に陥ってしまいます。」
確かに名手といえどもミスを犯すことはある。しかしそれに気づき、いち早く修正することで崩れかけた時合を元に戻す貞尾のテクニックは秀逸のひとこと。さらに隣のアングラーのエサ打ちテンポの乱れによって変化する、自身のポイントに群がるへら鮒の数や動きにも注意を怠ることなく適宜訂正の手を加える緻密さにも脱帽。時折訪れる不安定な局面をその都度回避し、アタリを送ることで増えるダブルヒットを交えながら爆釣街道を突き進んだ!
取材時使用タックル
●サオ
シマノ「普天元 獅子吼」7尺
●ミチイト
オーナーばり「白の道糸」1.0号
●ハリス
オーナーばり「ザイトSABAKIへらハリス」0.5号 上15cm/下22cm
●ハリ
上下=オーナーばり「バラサ」7号→後に「セッサ」7号
●ウキ
①本多作「チョーチン両ダンゴ用/試案品PCムクトップ」#8【オモリ負荷量≒1.65g/エサ落ち目盛りは全11目盛り中6目盛りだし】
②本多作 同タイプ試案品#9【オモリ負荷量≒1.85g/エサ落ち目盛りは同上】
取材時使用エサ
●当日の決まりエサ(貞尾流チョーチン両ダンゴ釣りの定番ブレンド)
「カクシン」120cc+「コウテン」120cc+「グルバラ」120cc+「BBフラッシュ」120cc+「浅ダナ一本」120cc+水150cc(5種の麩材をエサボウルに取って軽く混ぜ合わせ、水を注ぎこんだら五指を熊手状に開いてよくかき混ぜる。目安としては五指にまとわりつくような引っ掛かり、抵抗を感じたら一旦手を止める。)+「凄麩」120cc(エサはすべて100ccカップで山盛り1杯)
ダマをほぐすように丁寧にかき混ぜ、全体が均一に混ざったら基エサの完成となる。使用する際は小分けしたものに適宜手水と押し練りを加えるが、基本的なエサ合わせはこれの繰り返しとなる。ただしエサを持たせようとして過剰に練りを加えてネバリで持たせようとすることは厳禁。たとえ持ったとしてもカラツンになったりスルーされたりする確率が高く、やがてへら鮒の嗜好に合わないタッチになり食いアタリがでにくくなってしまうという。なおナジミ際のウキの動きが少なく、すんなりナジんでしまうときは、最後に絡める「凄麩」を「バラケマッハ」に置き換えて開きをよくする。