稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第130回 「内島康之の沖宙ウドンセット釣り」|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第130回 「内島康之の沖宙ウドンセット釣り」

水面にピタリと張りつき、凍りついたように動かぬウキ。アタリはおろかサワリすら現われないトップを見つめ、途方に暮れるアングラーからは嘆きの声が聞こえてくる。そんな厳しい釣りを強いられる厳寒期の釣りだが、これに混雑が加わるとへら鮒の食い渋りはさらに激化し、当然ながら打てる手立ても限られてくる。今回はそんな厳しい釣りを常に強いられているサンデーアングラーの強い味方、マルキユーインストラクター内島康之に救いの手を差し伸べてもらった。今回の取材フィールドは千葉県柏市にある清遊湖。魚影密度の濃い管理釣り場として知られた同湖でも、この時季は連日厳しい釣りが続いているようで、内島の必釣テクを見ていただくにはむしろ好都合のシチュエーションが整った。

アタリが欲しくばコンディションの良いへら鮒が潜む沖めを攻めるべし!

今回のテーマは厳寒期の激渋時合い下において、1回でも多くアタリをだして釣果に結びつけること。この時季、手堅く釣るのであれば段差の底釣りやチョーチンウドンセット釣りを選択肢から外すことはできないが、それでも同じ釣り方が横一線に並んでしまう混雑時には手も足もでない状況に陥ることも少なくない。そこで着目したのが中長尺竿を使った沖め狙いの浅ダナウドンセット釣りである。

「基本的に自分はサンデーアングラーですので、この時季の釣りの厳しさはよく分かっているつもりですし、まともにサワリもでないような食い渋り時に貴重な1枚をものにするためには、相応のコツやテクニックが必要であることも理解しています。今回オーダーいただいた沖宙ウドンセット釣りは、自身プライベートの釣りでもよくやる釣り方なので、今回はこの釣り方の大切なポイントやコツなどをお見せできればいいですね。」

ひととおり朝の入場が落ち着いたところを見計らい、ほかの釣り客の邪魔にならないよう釣り場の奥へと歩を進める内島。この時季当たり前のように吹く季節風の影響や撮影の支障にならないようにとの配慮から、北桟橋の最奥部にほど近い302番座席に釣り座を構えた。朝から陽が当たる対岸の中央桟橋は既に多くのアングラーで賑わっていたが、日陰となるこちら側には数名の先釣者しかおらず、比較的空いていたことからまずは16.5尺を継ぎ、沖宙浅ダナウドンセット釣りの支度に取りかかる。

「明らかな混雑時であれば迷わずに18尺以上の長竿で始めることもありますが、竿は長くなればなるほど操作が難しくなるので無理は禁物です。私自身はアタリが続く範囲内で最短尺の竿を使うようにしていますが、比較的沖めのエリアには大型の旧べらや食いが素直な新べらが居着いている釣り場が多いので、こうしたメリットが生かせると判断したときには積極的に沖めを攻めるようにしています。それが混雑時にアタリをもらう第一のポイントですからね。」

エサ打ち開始は7時半過ぎ。この時季は朝一からスタートしても、アタリ始めるまでに小一時間はかかることが当たり前だという。開始直後のバラケは直径18mm程にまとめたものに軽く圧をかけ、ハリのチモト部分をキュッと押えた水滴型がスタンダード。くわせの「感嘆」は直径5mm程に絞りだし、ハリ先を確実に外にだしたエサ付けとして比較的早いテンポで打ち返す。当日はかなりの食い渋りを覚悟して臨んだが、初めてウキに動きがみられたのは意外に早く、開始から10投ほど打った頃。一旦タナに入ったバラケが一気に抜けた直後に微弱なサワリが現われ、直後に半目盛りほどムズッと押えたがヒットには結びつかなかった。ファーストヒットはさらに10投ほど打ち込んだ後、先ほどと同じような動きから今度はカチッと明確なアタリがでて大きく竿が弧を描くと、昨秋放流された良型の新べらが水面を割ってでた。

使用タックル

●サオ
シマノ普天元「獅子吼」16.5尺

●ミチイト
オーナーザイト「白の道糸」0.6号

●ハリス
オーナーザイトSABAKIへらハリス 上=0.5号-8cm、下=0.3号-6065cm

●ハリ
上=オーナーばり「バラサ」6号、下=オーナーばり「サスケ」3→2号

●ウキ
旭舟「浅ダナ用プロトタイプ」
【極細パイプトップ/ボディ6cm/オモリ負荷量≒0.75g/エサ落ち目盛りはクワセを付けて全9目盛り中4目盛りだし】

取材時使用エサ

●バラケエサ

「粒戦」100cc+「粒戦細粒」50cc+水200cc(吸水のため約10分放置後)+「ヤグラ」100cc+「セット専用バラケ」100cc+バラケマッハ」100cc(「ヤグラ」「セット専用バラケ」「バラケマッハ」はいずれも山盛り気味)

五指を熊手状に開いて大きくかき混ぜ、ダマが残らないよう丁寧にほぐしておく。使うときには別ボウルに1/3程取り分け、調整は手水と撹拌で行う。

●くわせエサ

「感嘆」(「軽さなぎ」入り)10cc+「感嘆Ⅱ」5cc+水15cc

「感嘆」は1袋に対して「軽さなぎ」20ccをあらかじめ加えてよく混ぜ合わせておいたものを使用。他に「力玉」「力玉大粒(『軽さなぎ』漬け)」を用意し、釣況によって使い分ける。

内島流 沖宙ウドンセット釣りのキモ その一:釣り座+竿の長さ+タナの深さの三次元(3D)イメージで攻略せよ!

沖めを攻める理由については既に触れているが、漠然と沖め狙いがよいというだけで安易に長竿を振ることについては、いささかリスクが大きいのではないだろうか。この点について内島の見解は、

「中長尺竿の扱いに不慣れなアングラーが闇雲に沖めの浅ダナを攻めることについては、決して強くは勧められません。確かに口を使うコンディションのよいへら鮒が沖に居着く釣り場は多いのですが、たとえそうした釣り場であっても意外にポイント差が激しく、無闇に釣り座を選んでもよい釣果は期待できません。肝心なことは狙いに適したいいへら鮒が確実に居着いているエリアを探り当てること。近年SNSなどでリアルタイムの状況が容易に入手できるようになったのでこれに釣り場の管理人さんから得た直近の釣況を加味すれば、まず大ハズレはないでしょう。ただし天候や風向きには注意が必要で、短竿とは異なり正確に沖に立つウキの位置にエサを打ち込む必要があることから、風を背にする釣り座であることは必須条件。加えてトップの細い華奢なウキが遠く沖めに立つため、微細なサワリや小さな食いアタリが識別できる、見やすいところにウキが立つ釣り座選びや竿の長さ選びも忘れてはなりません。」

今回、内島が入った釣り座はまさにこれらの条件にピタリと当てはまるポイントであり、この地の利を生かして早々にヒットを決めると、その後大小の波はあるものの、その都度バラケやセッティングを合わせて難時合いを攻略してみせた。その際アタリを復活させたりヒット率を上げたりすることに大きな影響を及ぼしたのが、複数回に及んだタナの変更である。

「この釣りではタナのアジャストも重要なテクニックであり、釣果を左右する大きな要因となります。今日はウキ下1.7mから始めて、アタリがでにくくなったところで一旦タナを10cm弱下げてアタリを復活させ、その後も数回タナを上げ下げしながらアタリを維持し、全体的にへら鮒のタナが上がった後半戦には1.5mくらいまで浅くしてよくなりました。一般的な短竿浅ダナウドンセット釣りではタナをウキ下1mに固定したら終日そのまま通すことが多いのですが、沖宙釣りでは2m以上の深いタナになることも珍しくないので、口を使ってくれるへら鮒がいる位置を立体的に、三次元(3D)で捉えることが重要です。」

内島流 沖宙ウドンセット釣りのキモ その二:「ヤグラ」の重さとまとまり感が、難しいバラケの抜き・持たせを容易にする

厳寒期のセット釣りである以上、バラケの抜き方や持たせ加減をコントロールするテクニックは必要不可欠であり、トップアングラーといえども避けては通ることができない関門である。今回、内島のバラケには「ヤグラ」がブレンドされている。ご記憶の読者諸兄も居られるかもしれないが、以前、内島に沖め狙いの浅ダナウドンセット釣りを披露してもらった際に使用していたバラケには「ヤグラ」ではなく「セットアップ」がブレンドされていた。まずはこの違いについて訊ねてみると、

「今でも変わらず『セットアップ』は使っていますが、今回のように長竿である程度タナを深めにとり、なおかつバラケを狙ったタイミングで抜いたり、場合によっては長時間持たせたりといったコントロールは、重さとまとまり感に勝る『ヤグラ』の方が扱いやすいと思い、セレクトしました。基本的にバラケは上層で早く抜くよりも、タナまで持たせたうえで適切なタイミングで抜く方が難しいので、多少あまめに付けてもタナ近くまで持つバラケの方がへら鮒をくわせに誘導しやすく、食いアタリを引きだすためにはマストの特性だと考えています。」

さらに内島はバラケの抜き・持たせの精度を高めるためには、バラケのタッチそのものについてもその重要性を説く。つまりバラケのコントロールはタッチとエサ付けが噛み合ってこそなしえるものだということを強く意識するのが肝心なのだ。

「バラケを仕上げた状態のまま、すなわち基エサをそのまま使い始めるアングラーも大勢いらっしゃいますが、私の基エサはやや水分量が少なく、まとめるにはやや難しいタッチに仕上がります。このため自分が意図するようにバラケをコントロールするには、あらかじめ少量の手水を加えてしっとり感を増し、エサ付けを容易にしたうえで使うようにしているのです。今回は基エサに2~3回手水を加えたタッチが合っていたようで、このバラケを一旦タナまで持たせたところで一気に抜き、バラケの粒子が直下に沈下するなかにくわせエサがフリーフォールでシンクロするタイミングでサワリがあって、その直後に食いアタリがでるパターンが多かったように思います。」

内島流 沖宙ウドンセット釣りのキモ その三:トップの動きでエサの位置をイメージ。狙ったタイミングで確実に食わせる!

今回のキモはまさにここにある。内島は食いが渋い厳寒期だからこそ、なおさらくわせエサがフリーフォール状態にあるときにヒットチャンスが生まれると言い、それだけにできるだけ正確にエサの位置を把握することが肝心だと力説する。今回、内島には水中で起きている事象をウキの動きをみながら解説してもらっており、トップが沈没するくらい深くナジミきったところで「バラケが完全にタナに入った」とか、ナジんだトップがすぐに戻し、くわせを付けたエサ落ち目盛りよりも多く水面上にでたところで「今バラケが抜けたが、まだくわせは上層に位置している」とか、さらにそこからジワリと1目盛りナジんで本来のエサ落ち目盛りがでると「今くわせがバラケの粒子のなかに入り、バラケとシンクロしている」といった具合に、目では見ることができない水中の様子をイメージし言葉に表わしてもらった。そして、そのイメージ精度が極めて高いことを示すように「今フリーフォール状態にあるくわせに興味を示しているサワリがでているので、ここでアタればヒットする」と言った直後にアタリがでてヒットにつながったシーンが数多く見られた。

「1年のうちで最もへら鮒の食いが渋い時季なので、どうしても待ち釣りになりがちですが、今回の沖宙釣りはそうした状況下にあっても比較的食い気のあるコンディションのよいへら鮒がターゲットであり、フリーフォール中の動きのあるエサに対するナチュラルバイトを狙ったアプローチが効く釣り方なので、そのチャンスをみすみす逃す手はありません。たとえウキの動きは小さくても無駄な動きが少ない分、かえってウキの動きから水中を読み解くのに都合がよく、動画を見ていただくとその辺りのコツが分かっていただけると思います。基本はあくまでくわせのフリーフォールからナジミきった直後のナチュラルバイトですが、そこで食わないときはやや待ち気味にシフトします。そして微細なサワリがあればサソイを入れながら摂餌を刺激し、サワリが途絶えたときには速やかに打ち返すなど、自ら定めたルーティンとして一定のリズムで攻め続ければ、厳寒期の厳しい釣りでもアクティブに楽しむことができると思います。」

記者の目:難しいバラケのコントロールを簡単に!「ヤグラ」の果たす役割は重く、そして大きかった

今回、内島が実践&解説してくれた沖宙ウドンセット釣りにおけるウキの動きの読み方。一般的な短竿でのメーターウドンセット釣りに比べて上下のハリス段差が広く、加えてバラケを抜いたり持たせたりといったメリハリのあるアプローチにより、たとえ少なく小さなウキの上下動のなかでもエサの位置を正確にイメージでき、それを食いアタリにつなげるプロセスが理解できた取材であった。状況に応じた的確な抜き&持たせの切り替え判断は内島の経験値によるところが大きいが、抜いたり持たせたりといった肝心要の働きを司った「ヤグラ」がバラケの主役であったことは、紛うことなき事実であろう。取材途中、内島に無理を言って「ヤグラ」を「セットアップ」に替えたブレンドを試してもらったが、釣果に大きな違いはみられなかったものの、比較的タナに入れてから抜くアプローチに好反応を示した今回の清遊湖のへら鮒に対しては、明らかに持たせるパターンのエサ付けが楽にできる「ヤグラ」ブレンドのバラケの方が、メリハリのある動きがウキに現われていた。また、しっかりエサ付けしてもタナで確実に抜ける性能は、振り込み時の遠心力が強くかかる沖宙釣りにとって大きなアドバンテージになることは間違いない。中長尺竿の沖宙釣りは厳寒期だけの釣り方ではなく、春に動き始める良型の旧べら(地べら)や、放流後まだ口を使っていない大型新べらに対しても有効な釣り方なので、新たな扉を開けるべく、この春「ヤグラ」バラケの沖宙ウドンセット釣りにチャレンジしてみてはいかがだろうか。