稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第128回 「石井忠相の段差の底釣り」
「段底で結果を残したいなら地道に攻めるしかない!」こう言いきるのはマルキューインストラクター石井忠相。近年その釣り難しさを増した段差の底釣り(以下、段底)にお悩みの読者諸兄の声も多く聞くという石井の段底アプローチは、段底が普及し始めた遙か以前から今日までブレることなくこのひと言に尽きるという。地道というと何やら古くさいというか面倒臭いといったイメージがつきまとうが、近年の段底には誰でも簡単に釣れるといった特効薬はなく、もちろんすぐに正解に辿り着けるような近道もない。それを誰よりも知っている石井だからこそ、自らが率先して実践し、結果も残している。今回はそんな地道な石井流段底のポイントを地道に紹介する。
気難しい〝聖地〟のへら鮒だからこそ地道なアプローチが生かされる
底さえとれればあらゆるフィールドで通用する段底だが、石井流の地道なアプローチの効果を実証するとしたらここしかないと選ばれたのは「段底の聖地」とも称される武蔵の池だ。良型のへら鮒が多いことで知られる同池はどこの釣り座からも12尺前後で底が取れるため底釣りファンが多く、また市街地にあるため比較的季節風に強い釣り場として冬季に人気が高い。こうしたことも段底の聖地と呼ばれる所以なのかもしれないが、それだけに段底慣れした高偏差値のへら鮒が相手になるため他の釣り場よりもワンランク、否それ以上に難易度の高さを身に染みて感じる釣り場である。
「釣れそうで釣れない、決まりそうで決めきれない、そんな武蔵の池の段底の難しさは私もよく知っています(苦笑)。今日はいつも以上に気を引き締めて実釣に臨むつもりですが、今日は心強い味方を携えて来ましたので、それもあわせて地道な段底を見ていただければ幸いです。」
そう言って石井が取りだしたのは新エサ「ヤグラ」だ。重めで徹底した縦バラケが特徴のバラケエサだが、開発中に様々なシチュエーションでテストを積み重ねてきた石井だからこそ、段底での有効性は誰よりも知り抜いており、今回は「ヤグラ」の力も借りて彼流の段底を披露してくれるという。取材は11月末のウィークデーであったが、さすが冬季に人気の釣り場だけに例会組をはじめ多くのアングラーで賑わっており、池の中央付近に釣り座を構えた石井の周囲は後から来る釣り人であっという間に埋め尽くされてしまった。
「ただでさえ難しいうえにいい感じ(?)の混雑でさらに難易度は上がりそうですが、それだけに地道に攻めるアプローチと『ヤグラ』の威力を見ていただくには願ってもないチャンスじゃないですか。」
脚色のないリアルな実釣こそ悩めるアングラーの一助になると信じて止まない石井は、このマイナス因子が重なる状況にも怯むことなく、むしろ真の力が発揮できるシチュエーションに前向きな姿勢を崩さず、同池鉄板と称される12尺段底の支度に取りかかった。
使用タックル
●サオ
かちどき「匠絆忠相」12尺
●ミチイト
オーナーザイト「白の道糸」0.8号
●ハリス
オーナーザイトSABAKIへらハリス 上=0.6号-12cm、下=0.5号-50cm
●ハリ
上=オーナー「バラサ」8号、下=オーナー「リグル」5号
●ウキ
忠相「S Position BOTTOM」 11番
【極細PCムクトップ15.0cm/一本取り羽根ボディ11.5cm/竹足5.0cm/オモリ負荷量≒1.6g】※エサ落ち目盛りは宙の状態で11目盛り中9目盛りだし
取材時使用エサ
●バラケエサ
「粒戦」100cc+水200cc(必要な吸水時間は気温・水温によって異なり、低くなるほどに長く放置するとよい)+「ヤグラ」300cc+「段底」100cc
五指を熊手状に開いて掘り起こすように大きくかき混ぜ、水分を全体に均等にゆきわたらせる。「段底」をブレンドに加えるのはエサを締めるためであり、仕上がりはその狙いどおり「段底」の締め効果により粗めの麩材を多く含む「ヤグラ」を適度にまとめたしっとりボソタッチ。基本的なエサ合わせは手水調整で行うが、タナまで確実にバラケを送り届けるにはやわらかくしすぎないのがポイントで、硬めに調整する際は微粒子系の「セット専用バラケ」を適宜加えて水分を吸わせる。
●くわせエサ
❶「魚信」1分包+水75cc(仕上がりはやわらかめ)
基本は電子レンジ作り。カップに取ってよく溶かしたら500~600wで60秒→30秒→30秒と3回に分けて加熱と練り込みを繰り返し、ウドン絞り器で直径6mm程に絞りだしたものを10cmほどにカット。安定液「わらび職人」を適宜まぶしたら密閉容器に入れて釣り場に持参。現場で適当なサイズにカットして使用。
❷「感嘆Ⅱ」10cc+水12cc
シリンジで計った水12ccを100ccカップに注いでおいたところに、計量スプーンで量った「感嘆Ⅱ」を10cc加えて指でかき混ぜ練り込み、ダマ無く混ざり十分にコシがでたところでアルミポンプに詰めて使用。
石井流 厳寒期の段差の底釣りのキモ そのⅠ:〝急がば回れ〟安定した時合い下で釣りきるための深ナジミアプローチ
「現代の段底はそれほど難しいのか?」と素朴な疑問を石井に投げかけてみた。すると
「答えはノーです。数だけみれば明らかに釣れる枚数は減りましたが、今と昔では放流されているへら鮒の型も数も同じではありませんので一概に比較することはできません。ただハッキリと言えることは、難しいのではなく、比較的簡単に段底が釣れるものと勘違いをしているのではないでしょうか。また目先の1枚を釣ろうとするあまり、トリッキーなテクニックに走ることで釣果と引き換えに思わぬウワズリを招いてしまい、これが釣れない要因であることに気づいていないアングラーも意外に多いように感じます。」
いったいどれくらい釣れれば満足なのか、その度合いは人によって様々だ。かつて10㎏以上釣ることが困難であった時代の段底では10㎏/30枚は確かに大釣りの部類であったが、今は同じ10㎏の釣果でもその数は10枚という実情からすれば、これもまた大釣りといえるのではないだろうか。記者は石井の言葉をそうした実態を理解して欲しいと示唆したものだと捉えたが、事実現代の段底ではこの10枚を釣るための努力と我慢を怠り、あまりにも簡単に一足飛びに釣ろうという気持ちがかえって難しさにつながっているように感じているひとりである。
「実際に一人当たりに割り当てられるへら鮒の数は減っていますので、これを1枚たりとも取りこぼさず釣りきるためには速攻や奇策は通用しません。確かに目先を変えれば1~2枚は釣れるのですが、1日という長いスパンで見るとかえってそれがマイナス要因となり、大抵は時合いを掴みきれずに終わることが多いのではないでしょうか。だからこそ焦りは禁物であり、一見遅く非効率的で遠回りに感じるかもしれませんが、地道に拾い続けるためにウキを深くナジませ、バラケをしっかりタナまで持たせるアプローチこそが最も釣れる段底のキモになります。それだけに我慢を積み重ねた結果、チクッと小さく押えたアタリでヒットさせたときの「仕留めた感」とでもいうのでしょうか、あのゾクゾクした快感は段底ならではのものだといえますね(笑)。」
ただでさえアタリが少なく釣果も伸び悩む時季の釣りなので、アタリがでないとつい目先の1枚を釣ろうとイレギュラーな攻めを選択しがちだが、多くのケースではそうして得た1~2枚も1日かけて作り上げた時合いによって地道に拾い続ける釣りには遠く及ばない、というのが石井の確固たる信念なのである。
石井流 厳寒期の段差の底釣りのキモ そのⅡ:へら鮒に逆立ちをさせてエサを食わせる「ヤグラ」の縦バラケ効果
厳寒期はへら鮒の活性が著しく低下する時季であり、エサに対するレスポンスが悪いへら鮒に口を使わせるのは決してたやすいことではない。取り分け底釣りにおいてへら鮒が地底にあるエサを口にするためには尻尾を上にして頭(口)を下に向けた、いわゆる逆立ち状態にさせなければならない。しかしこれが口で言うほど簡単ではなく、どんなにたくさんのへら鮒がエサの近くに寄っていたとしても、頭を下に向けてくわせエサを口にしなければ決してアタリはでない。実際エサの打ち始めから底に居着いているへら鮒は思っているほど多くはなく、そのため好釣果を得るためには底からわずかに離れているへら鮒をもプラスαのターゲットとして含めなければならない。
「一般的に段底では重めのバラケを用いますが、それでも落下途中で開き過ぎたり、意図するよりも早く抜けたりしてしまうと、数少ないへら鮒がウワズってしまい地底から離れてしまいます。最悪なのは水中で花火状に広がってしまうバラケで、これでは広範囲に漂う粒子の煙幕の中にへら鮒は入って来られず、いわゆる遠巻き状態となりアタリがでにくくなってしまいます。従って厳寒期の段底に適したバラケは横への広がりを抑えた縦バラケで、さらにエサの傍まで寄せたへら鮒に逆立ちさせるためには、アングラーのエサ付けテクニックによるコントロールはもちろんのこと、それ以上にバラケの粒子そのものによる誘導力(誘引力)がものを言うのです。今回はそうした狙いにマッチする『ヤグラ』をバラケの核にしましたが、幸い狙いどおりになりました。さらに今回はまとめ役として『段底』をブレンドしましたが、この効果も大きかったと思います。なぜなら100ccの『段底』によりまとまり感が増し、エサ付けが容易になるのと同時にエサ付けミスによる早抜けも防止でき、折角作り上げた逆立ち状態を崩壊させずに済みましたからね。」
取材時はまだ宙層のへら鮒の活性が高く、完全に地底に居着いたへら鮒自体が少ない状況であったが、「ヤグラ」の特性を生かしたバラケ使いで徐々に地底に誘導された良型のへら鮒が釣れ続く時合いを構築した石井。決してハイペースではないが、彼の信条である地道なアプローチに徹したことで、大きな穴を開けることなく実にコンスタントに聖地のへら鮒をヒットさせ続けた。
石井流 厳寒期の段差の底釣りのキモ そのⅢ:適材適所に配置された〝地道〟を支える基本テクの数々
石井の段底の軸は徹底したウキの深ナジミと縦バラケであることは腑に落ちたが、それだけで釣りきれるほど厳寒期の段底はあまくはない。ほかにも珠玉のテクニックがありはしないかと目を皿のようにして彼の一挙手一投足に注目していたが、これといって目立つような動きは見られなかったものの、以下に挙げた基本テクニックを間断なく繰りだしながらコンスタントに釣り続けた。それは……
❶自分のリズム・テンポを堅持してイニシアティブを持ち続ける
ウキの動きが停滞するとどうしてもエサ打ちのリズムやテンポが悪くなりがちだが、自らの手にイニシアティブを握り優位に攻めるためにはアタリを待つ時間や打ち返しのタイミング等々、意識して自分のリズムを堅持することが大切。
❷釣れていてもウワズリは起きる 適切に訂正の投を入れて時合いをキープする
どんなにアングラーが気をつけていても気温や水温の変化によってウワズリは起きる。しかもハッキリとウキに表われないレベルのウワズリがあるので、たとえコンスタントに釣れていたとしてもイレギュラーなウキの動きが表われたときや、思ったよりもウキのナジミが悪くなったときには意識的にバラケをしっかり付けて、沈没気味にトップをさらに深くナジませる。
❸深ナジミ・縦バラケにも違いあり その日その時々のヒットパターンを探り当てる
ひと言に深ナジミ、縦バラケと言ってもアタリにつながるパターンは様々だ。トップを1~2目盛り残すのか沈没させるのか、そしてそれをジワジワとゆっくり戻すのか一気に戻すのか。そうしたわずかな違いをへら鮒は察知するので、その日その時々のへら鮒の気に入るような微調整が必要。
❹1投のエサ付けミスが命取りとなることも エサ付けは急がず焦らず丁寧に
釣れていないとつい焦りが先に立ってしまうが、わずか1投の早抜け(落下途中で抜け落ちてしまいナジミ幅がまったくでない状態)が時合いを崩壊させてしまう恐れがあるので、どちらかといえば持ち過ぎるくらいの方が失敗は少ないので、エサ付けはくれぐれも丁寧に。
❺勝負目盛りは段底の命綱 でにくくなったら一からすべてをやり直す
くわせエサが安定した状態で着底していることを示す「勝負目盛り」。様々な要因によりでにくくなることがあるが、バラケが完全に抜けているにもかかわらずこの目盛りが水面上に現われないときはエサ落ち目盛りの再確認、タナ取りのやり直し、ズラシ幅の調整を必ず行い、疑心暗鬼のなかで釣りを継続しないことを徹底。
❻くわせエサは複数あればベター ローテーションで目先を変えるのも有効
この日使ったのは「魚信」をメインに、アタリがでにくいときに「感嘆Ⅱ」を織り交ぜながら目先を変えて摂餌を促したところ、時間帯によって明らかな違いが見られたことから複数準備しておくことは釣果アップにつながる重要なテクニックだと証明された。
❼サソイは必須テクニック タイミングとサソイ方をマッチさせる
サソイは段底の必須テクニック。取り分け縦サソイはアタリがでにくいときやウキがシモって勝負目盛りがでないときに有効だが、だからといって闇雲に行えばよいというわけではなく、基本的にはサワリがあるときは静かにアタリを待ち、それが途切れたらサソイを入れる。その際待ち過ぎないことも肝に銘じたい。
❽ウキのタイプも適材適所 あなたはパイプトップ派?それともムクトップ派?
今回使用した忠相「S Position BOTTOM」は厳寒期の小さなサワリが読みやすいという特性を持つPCムクトップだが、比較的へら鮒の動きがよいときや流れがあるときは、浮力がありバラケをしっかり持たせてタナを安定させやすいパイプトップを使うことでより釣りやすくなる。
「やっていることは本当に地味ですよね(笑)。でもこれこそが段底で最も有効かつ効果的なアプローチなのです。なにも特別なことをやっているわけではありませんが、いつでも繰り出せる心構えと準備を怠らず適材適所に配置しておき、必要とあらばタイミングよく繰りだすことが必要ですね。」
記者の目:〝地道〟とは基本の反復と見つけたり!
地道という言葉にネガティブなイメージを抱く人もいるかもしれないが、石井が提唱する「地道」なアプローチは丁寧さこそ際立っているが決して消極的なことはなく、むしろ積極的に地道さを追い求めているようにさえ感じた。宙釣りであればくわせエサが静止した(タナにぶら下がった)状態でなくてもナジミ際にヒットさせることは可能だが、段底では確実に地底にエサが着底し静止した状態でなければ基本的にヒットさせることはできない。従ってくわせエサが食いやすい状態を構築、維持することが何より重要であり、そのためにはくわせエサ周辺に無駄な麩の粒子を漂わせることなく徹底した縦バラケで地底に誘導し、さらには逆立ちさせて頭(口)を下に向けさせなければならない。こうした状態を構築するためには当然ながら時間も手間もかかる。それこそ正真正銘「地道」な作業だが、その先にこそ満足のいく釣果が期待できると石井は断言する。段底に限らず石井の釣りの根幹にはこの「地道」という考え方がしっかりと根づいている。思うようにウキが動かないとつい派手なアプローチに活路を見いだしたくなるが、そんなときこそ基本に立ち返り「地道」にへら鮒と対峙してみてはいかがだろうか。