稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第103回 杉本智也のクラシカル両ダンゴの底釣り
〝秋深き隣は何をする人ぞ〟と隣を見れば、長竿で底釣りをするアングラーが目立つ今日この頃。日に日に深まる秋を満喫するには底釣りが一番と言わんばかりの人気振りだが、かく言う記者も底釣りは大好物のひとつ。その魅力はなんといっても、あの独特なウキの動きに尽きるだろう。微細ながらも小幅な振幅のなかにメリハリがあり、最後にチクッと決める絶妙な食いアタリには鳥肌が立つ思いがする。とはいえ面倒なタナ取りに始まり、宙釣りのように頻繁にハリスの長さを変えたりウキを交換したりするようなアクションが少ないため、多くのへらアングラーの目には大変地味でシブい釣りに映るに違いない。そんな底釣りの魅力を読者諸兄に伝えるためにどうしたら良いかと考えた末に、この男に白羽の矢を立てた。プロへらアングラーでありマルキユーインストラクターでもある杉本智也だ。プライベートでは底釣りをする機会が多いという杉本だが、彼の釣りは実に古典的かつ基本に忠実な極めてオーソドックスなスタイル。だからこその見応えある王道底釣りをとくとご覧あれ!
キモはタナだけじゃない杉本流の底釣り。理詰めのブレンディングが冴え渡る!
底釣りはタナ取りに始まる、いわゆる〝タナ合わせ〟が重要だといわれている。当然ながらこの日の釣りもタナ取りから始まった。杉本のタナ取りは至ってシンプルで、ウキにフロートは装着せずに既成のタナ取りゴムを付けて打ち込むだけだ。
「タナ取りは底釣りにおいて必要不可欠な作業ですが、釣り始めの時点ではあくまで基準となるタナを決めることに止め、ウキのナジミ幅や動きを見て微調整を繰り返しながら、最終的に釣れるタナに合せることが肝心なのです。従ってあまり慎重になる必要はありませんが、だからといって疎かにすることもできません。この時点でやっておくべきことは精度の高いタナ取りよりも、むしろ底の形状や変化を把握しておくことが肝心であって、これこそが後々重要な意味を持つことになるのです。」
そう言いながら、本来ウキが立つ位置(エサが着生するポイントの真上)を中心に前後左右40~50cm周辺の水深も計り始めた杉本。その結果左から右に深くなるカケアガリで、しかも所々に凹凸のある極めて厄介な地底であることが記者にも分かった。元来底釣りはフラットな地底の方が釣りやすいといわれるが、このあたりのところについて杉本は、
「確かにそれは正論です。しかしこうした場所でもピンポイントでアタリがでやすい場所が必ずあるので、実際にエサを打ちながら探り当てれば良いでしょう。むしろ現時点ではウキの戻しが悪くなりそうな凹凸の激しい部分だけを頭に入れておき、そこを避けてウキを立たせることを考えています。それに底釣りはタナだけで決まるものではなく、エサ使いも非常に大切な要素だと考えています。時期的には両ダンゴがベストだと思いますが、ここ鬼東沼は初めての釣り場なので何が良いのかまったく分かりませんので、とりあえず基本的なブレンドからスタートして、その後はへら鮒と相談しながらベストを目指して行きましょう。」
結果を先に述べてしまうと、この日の釣りはまさにエサが決め手となった。実際に複数のブレンドパターンを打ち比べ、さらにグルテンまでも試した結果、明らかに特定のブレンドパターンのエサに好反応を示した。その結果、直近の釣況から見込まれた釣果を遙かに凌ぐ良い釣りができたことを明かしたうえで、早速当日の杉本の釣りを紐解いてみることにしよう。
使用タックル
●サオ
がまかつ「幻将天」21尺
●ミチイト
東レ「将鱗へらストロングアイ道糸」1.0号
●ハリス
東レ「将鱗へら SUPER PRO Plus ハリス」0.5号
上=40cm、下=48cm
●ハリ
上下=がまかつ「ボトムマスター」上下=6号
●ウキ
TOMO「S1」No.17
【パイプトップ17.0cm/二枚合わせ羽根ボディ17.0cm/カーボン足4.5cm/オモリ負荷量2.9g/全 10目盛り中6目盛り出し】
●ウキゴム
かちどき「フィットホールド」
●ウキ止め
かちどき「魔法の糸」
●オモリ
0.3mm厚板オモリ×2ヶ所分散(内径0.4mmウレタンチューブ装着)
●ジョイント
サルマルカン
当日のブレンドパターン
「ダンゴの底釣り夏」50cc+「ダンゴの底釣り冬」50cc+「スーパーダンゴ」50cc(3種の麩材を混ぜ合わせてから)+水75cc(大きくかき混ぜ全体に水を行き渡らせたら数分放置。吸水が完了し安定したら全体をほぐしておく)
当日最もウキの動きが良く、グッドコンディションの良型のへら鮒が釣れたのがこのパターン。ちなみにスタート時に使用したエサは「スーパーダンゴ」を「バラケマッハ」に入れ替えたもので、当該ブレンドよりもバラケ性に富む、いわずと知れた底釣りの定番ブレンド。杉本はこれを自身の基準エサと位置付け、初釣り場での探りの一手とした。
杉本流クラシカル両ダンゴの底釣りのキモ:其のⅠ 麩材の特性を生かしたエサ合わせで、理想的な底釣りアタリを演出
取材に向けた一切のプラクティスは行わず、まったくサラの状態で実釣に臨んだ杉本。図らずも取材スタッフの狙いもここにあり、いかなるプロセスで〝初物〟を攻略していくのかを見せてもらうのにこれほどのシチュエーションはないだろう。前述の探りの基エサを作り終えると早速エサ打ちを開始。エサはもちろんだがタックル、アプローチを含めたすべてがニュートラルな状態でのスタートだ。記者が入手した直近の釣況は、取材直前まで両ダンゴの宙釣りではバクバクの状態だが、底釣りでの釣況はやる人も少ないことから数も型も今ひとつの状況であると聞いていた。
「釣況がよく分からないときに最初からキメキメの釣りはリスクが大き過ぎます。そこで基準となるエサ使いで始めてみましたがすぐにウキが動き出しましたね。でも少し動きが怪しいので、もしかしたらこの動きの正体はへら鮒ではないのかも知れません。」
杉本の疑問はすぐに判明した。モヤモヤしたウキの動きに続いてチクッと入ったアタリにアワせると10cmにも満たない小さなブルーギルがハリ掛かり。これが不規則なウキの動きの正体であることが分かった彼は、まだへら鮒の寄りが不十分であると判断し、強い圧をかけないエサ付けでテンポ良く打ち返していく。ところが数投後、意外にも同じようなウキの動きからの小さなアタリでサオが大きな弧を描いた。
「これはへらっぽいですね。それも良い型ですよ。凄い引きだ!」
思わず両手でためて強い引き込みに堪える杉本。釣れ始まるのはまだ先のことだし、それほど大きなへら鮒は期待できないと高を括っていた彼に、予想を上回る引きの強さと重量感で初釣行を出迎えてくれた鬼東べらは記者もビックリの良型の美ベラであった。
「こんな良いへら鮒が釣れるんですね。このサイズが続くのであればイケイケの釣りではなく、なおさらジックリと釣りを組み立てなければなりません。」
そう言うと、エサ打ちの精度を高めるべく丁寧な打ち込みを心掛けると共にウキのナジミ際のアタリを一切見送り、杉本が理想とする2目盛りほどのナジミ幅がでてからの、戻し際の明確なアタリに狙いを絞り込む作戦に。しかし釣れれば良型なのだが、ナジミ際に不必要にウキが動いたり(恐らくブルーギルの仕業)、肝心の食いアタリがでるまでエサが持たなかったりとウキの動きの不安定さが目立つ。単に釣れれば良いのではなく、底釣りらしい良いアタリで釣ることを理想と掲げる杉本は早めの打開策に打って出る。それはブレンドパターンの変更である。
「狙いはバラケ性を抑えたダンゴタッチのエサにすることで、ブルーギルに邪魔されることなくナジミ際の過剰な動きを抑制し、型の良いへら鮒がゆっくりエサを食えるよう最後までハリのフトコロにエサの芯を残すことです。それを果たせるのは『スーパーダンゴ』しかありません。これを『バラケマッハ』と入れ替えてみましょう。」
すると結果はすぐに現われた。ナジミ際の不安定かつ小刻みな上下動が鳴りを潜め、その後の動きにも安定感が増すと、それまでよりも手を出しやすい明確なアタリが多くなり、釣れてくるへら鮒もさらにサイズアップ。ちなみにこの後、さらに大型を狙ってグルテンも試してみたがこれは不発に終わり、昼食休憩を挟んだ後にこれも底釣りの定番である「ペレ底」を加えたブレンドを試すも動きは今ひとつ。そこで再び「スーパーダンゴ」をブレンドしたものに変えるとやはりこれが鬼東べらのお気に召したようで、終盤に向けて徐々にペースがあがると、「既に新べらを放流したのか?」と見紛うばかりのキロ級に迫る大型美ベラも顔を出し、やはりこのブレンドが当日のベストブレンドであることが見事に証明された。
杉本流クラシカル両ダンゴの底釣りのキモ:其のⅡ 「安定したナジミ幅+ウキの戻し+明確なアタリ」は底釣りの大原則!
この日の釣りのキモは、一目瞭然「スーパーダンゴ」による〝ブレンドの妙〟であることは明らかだが、そのウラで同じくらい重要な役割を担っていたのがエサを打ち込む精度。言い換えればアタリがでやすい地底にエサを着底させるための振り込み技術と巧みなロッドワークに他ならないと、記者は確信する。なぜならウキがナジミきり、エサが確実に着底した直後にも関わらず、その一投でアタリがでるか否かを杉本自身言い当てていたからだ。先に述べたように、この日杉本が入ったポイントの地底は傾斜と凸凹が混じり合った複雑な地形をしており、正直一筋縄ではいかない難攻不落のポイントだ。それにも関わらずコンスタントに釣り続けるのには、最重要といわれるタナが関係していることは底釣りをやったことのあるものであれば容易に想像がつくであろう。
「最初のタナ取りの時点で、ある程度底の状態はイメージできていました。さらにエサ打ち込みウキのナジミ幅を見ることでイメージとのギャップを埋めるのですが、同時にどの辺りにウキを立たせれば自分が理想とするナジミ幅がでて、さらに食いアタリにつながる地底に着底させることができるのかを探ることが大切なのです。今日のところは普通に正面に打ち込むと凸凹が多いところに着底してしまうようで、肝心のナジミ幅が不安定でアタリもでにくいように感じました。そこでやや右手前方に打ち込むと比較的ナジミ幅が安定する箇所がみつかったので、そこにエサを着底させるように心掛けました。結果は上々、理想のナジミ幅からゆったりと戻しが現われ、直後に力強い食いアタリが続くようになり、さらにエサを変えてからは着底直前でブルーギルに止められることもなく、やや食いつくのが遅い良型のへら鮒の好みにもマッチしたのか、予想以上の釣果になりましたね。」
早朝、今シーズン一番の冷え込みに見舞われた関東北部地方。それが幸いしたのか、水温の低下に伴い良型のへら鮒が底に着き始めたことで釣況が一変した鬼東沼。前評判では数も型も今ひとつと聞いていたが、気象を味方につけると共に自らのブレない古典的なテクニックを駆使し、今日まで口を使っていなかった(と思われる)グッドコンディションの良型を底釣りで攻略した杉本。最後も痺れるような「チクッ」でこの日の釣りを締め括った。
記者の目【タナ&エサのアジャストは当たり前。最後の仕上げは繊細なエサ付けで決まり!】
競技の釣りに勤しんでいても、プライベートでは底釣りを好むアングラーは少なくない。杉本智也もそんなアングラーのひとり。底釣り独特のウキの動きに魅せられた生粋のへらフィッシャーマンであり、へら鮒釣り本来の楽しみ方を知る男だ。そんな彼の底釣りを記者は興味深く見させてもらった。率直に言って見た目には地味だが、タナ取りに始まりブレンド変更によるエサ合わせまで、その一連の流れは淀みなく、理想とするナジミ幅をだした後の戻し際のアタリに狙いを絞るところなどは、記者の好みにピッタリのクラシカルな釣りである。しかし底釣りではこの古典的なアプローチが最も強く、これを基軸としたうえでアングラー独自の工夫やアレンジを加えると、より深くへら鮒釣りを楽しむことができるようになるのだ。本編では触れなかったが杉本のテクニックのなかで記者が真似のできなかったことがひとつある。それがエサ付けである。取材がひとしきり目途がついたところで杉本の釣り座で竿を振らせてもらったところ、まずアタリのでやすい地底にエサを着底させることに手間どったことは言うまでもないが、ポイントに入ったとしてもウキのナジミ幅が大き過ぎたり小さ過ぎたり、戻しが早過ぎたり遅過ぎたりして容易に釣ることができなかった。もちろんエサは「スーパーダンゴ」の入ったベストブレンドなのだが、結局のところ杉本と同じようなウキの動きにすることは叶わなかった。ここまで言えば記者が述べたいことは読者諸兄もお分かりだろう。タナ合わせやエサ合わせは底釣りの必須要項だが、他の釣り同様に最後の仕上げはエサ付けにあるということで、たとえ地味で目立たないテクニックかもしれないが、これが的確にできてこそのクラシカルな底釣りだと言えるだろう。