稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第19回 新感覚エサ「凄麩」の凄さ 実釣編
前回の釣技最前線では「凄麩」の基本性能について、新エサ開発の中心人物として関わった石井旭舟本人に熱く語ってもらったが、読者の皆様にはその感じがお分かりいただけたであろうか。とは言え、現物を見ても触れてもいない現時点で理解することは難しいが、およそへらエサを扱う上では基本タッチがどういうもので、どう扱えば良いのかを漠然とした感覚でも構わないので、自分自身が確実に持つことが大切である。 石井は「このエサは特徴がないのが特徴。驚くほど普通なんだけれどとにかく凄いんだ!」と力説していたが、想像力豊かで好奇心旺盛なユーザーサイドから見ると、見た目があまりにも普通過ぎてインパクトに欠ける嫌いがある。そこで時期尚早ではあったが、「凄麩」のポテンシャルを実証すべく急遽「凄麩レポートPartII」と題して実釣取材を敢行。石井の代名詞でもある「両ダンゴの深宙釣り」を披露してもらうことにした。取材フィールドは椎の木湖。ようやくダンゴに反応し始めた3月中旬の実釣レポートである。
汎用性は折り紙つき。しかし「凄麩」の真価は両ダンゴで体感すべし!
前回の釣技最前線の取材では、横利根川でのセットの宙釣りのバラケエサを紹介してもらったが、このエサの真価はこれからシーズンインする両ダンゴでこそ発揮されるという。
「『凄麩』は汎用性に優れたエサなので、両ダンゴはもちろんのことバラケでも使えてしまう。でも本来このエサが持つポテンシャルは両ダンゴでこそ最大限生かされるんだ。従来ダンゴのベースエサは、どちらかといえば我々メーカーサイドの人間が色々な麩材との相性を確かめた上で、推奨ブレンドパターンを探ってから紹介 することが多かったが、『凄麩』に関しては、むしろ使う人各々に委ねたい。というのは、これはダメだというパターンが見つからないからなんだ。つまりどんな麩材を組み合わせても狙い通りのエサに仕上がってしまうため、使うにあたっては釣り人各自が好みのエサを組み合わせてくれれば良いという結論に達したんだ。もちろん単品使いもOKで、初めて使うときには、まず単品を試してみてから『凄麩』3~4に対して他の麩材を1~2ブレンドしたものを使って欲しい。すると『凄麩』の性能にブレンドした麩材の性能が加わり、必ず狙い通りのエサに仕上がるハズだよ。あえて推奨ブレンドパターンを推さない訳は、決して我々インストラクターの怠慢ではなく、『凄麩』の基本性能の高さを信じているからに他ならない。今回の取材ではいくつかのブレンドパターンを紹介しているが、これなどはあくまで昨シーズン試したもののひとつであり、扱いやすいという点で優れていると感じただけ。今後は4月18日の発売以降、ユーザーの皆さんが各々好みのブレンドを試すなか、更に扱いやすいブレンドパターンが見つかることを期待しているくらいなんだ。だからみんなジャンジャン使って、これぞ!というブレンドパターンを探し出してくれよな。期待してるぜっ!」
使用タックル
●サオ
シマノ閃光R 19尺
●ミチイト
オーナーばり「ザイトへら道糸」0.8号
●ハリス
オーナーばり「ザイト・サバキへらハリス」上0.5号55cm/下0.5号70cm
●ハリ
オーナーばり 上下「サスケ」8号
●ウキ
旭舟「太(赤)」4番
【PCムクトップ21cm/一本取り羽根ボディ13cm/カーボン足8cm/オモリ負荷量≒2.3g/エサ落ち目盛りは全11目盛り中9目盛り出し】
●ウキゴム
オーナーばり 浮子ベスト2.0号
●ウキ止め
木綿糸
●オモリ
フィッシュリーグ絡み止めスイッチシンカー1.2g+0.25mm板オモリ1点巻き
●ジョイント
オーナーばり へら回転サルカン20号
盛期のへら鮒釣りの主軸である両ダンゴ釣りが今、難しい!?
石井の実釣に入る前に、昨年までのダンゴエサの傾向を振り返ってみよう。ここ数年は相変わらず軽めのヤワネバタッチを軸としつつも、ややボソ感が残らないとアタリが持続し難くなっている。以前は軽いヤワネバタッチのエサ一辺倒で釣りきれたため、素材としても軽くネバリのある素材をベースにして、僅かに変化する釣況にタッチを合わせれば比較的容易に釣ることができた。ところが最近になって、このヤワネバ系だけではアタリを持続させることができないことが多くなってきた。 原因はしばらく続いたヤワネバタッチにへら鮒 がエサ慣れしてしまった(飽きてしまった)などの、へら鮒そのものの嗜好の変化があることは否めない。しかし最も大きな要因は、ここ数年続いた新べら放流量の減少だろう。つまり放流量が減ることで魚影密度の低下につながり、その結果常に寄せを意識したボソエサの効果が必要になっていると考えられるのだ。
こうした変化は釣り人のエサ使いの扱い方にも否応なく変化対応を求めてくる。具体策をひとことでまとめると、状況によるこまめなタッチのアジャスティング。つまりヤワネバからカタボソタッチまで幅広く、尚かつ変化する釣況に合わせて調整を加え続けなければならないということだ。こうした変化に石井は、
「こまめな対応についてはウキの動きを見ていればある程度の目星はつくが、それが分かったとしてもエサ合わせということになるとまったく別問題。実際に両ダンゴで上手く釣れない人を見てみると、まとまり感のあるヤワネバ系が良いときはエサをネバらせ過ぎてしまい、エサの芯が残り過ぎてカラツンが収まらなかったり、開くカタボソ系が良いときにはエサがまとまり切れずに、芯が残せずにアタリを出しきれていなかったりする人が目立つね。 実はこれこそが現代両ダンゴ釣りの難しいところで、通常打ち始めに使うエサではボソ感が強過ぎるため、寄せ効果は大きいが一旦へら鮒が寄ってくるとエサの芯が持たなくなる。そこで持たなくなるとエサを練って開きを抑える。するとエサが硬くネバリが加わるのでエサは持つようになるが、今度は芯が持ち過ぎてカラツンになる。そこで食わせようとして手水を加えてタッチを軟らかくすると、今度はエサの芯が持たずにアタリが出なくなるといった具合だ。 一般的に開くボソ系のエサは芯が残り難く、ネバ系のエサは芯が残り過ぎてしまう。エサ合わせが上手な人はこの境を見切って難なく調整できてしまうが、多くの釣り人にとっては正直至難の業。そこで『凄麩』の登場という訳だが、こうしたエサ合わせの問題を解決してくれるのがこのエサの基本性能である“ボソでもエサ持ちが良く、練っても開く”という性質。つまり『凄麩』は現代両ダンゴ釣りの難しさから解放してくれる救世主なんだ。」
ウキの動きで実感できる「凄麩」のポテンシャル
では石井の実釣を見てみよう。初めに仕上げたエサは先に紹介したとおりの軽めでネバリのあるタイプ。石井自身あまり使わないブレンドだというが、取材時点の釣況が両ダンゴには時期尚早であり、当日のへら鮒のコンディションを探るためには、釣り手の意志が明確に反映されるよう自在に操れるものが望ましいという。石井はそうした狙いを分かりやすく示すためにこのブレンドを選択し、素早く支度を整えるとエサ打ちを開始した。
スタート時のエサ付けサイズは親指の頭大で、形状はやや角の残るラフ付け。エサ付けの動作に注目していると、指先で摘まんだエサへの手もみもエサ付けの際の圧も、まったくと言っていいほど力や圧を加えてはいない。にも関わらず確実に4~5目盛りのナジミ幅を示す。これこそが「凄麩」のセールスポイント“ボソタッチでも芯残り”を示す証であろう。
「単品の方がより分かりやすいかも知れないが、ブレンドしてもその基本性能が色あせることはない。今打ち込んでいるエサはまったく手を加えていない基エサの状態。いわば最高のボソタッチということになる。知っての通りボソタッチのエサは開きが早く、エサを深いタナまで持たせるのは難しい。にも関わらず、見ての通りにしっかりナジむ。しかもウキの戻りはジワジワとゆっくりで、ハリがエサの中心にある限り途中で割れ落ちすることもない。こうした特性はタナにしっかりへら鮒を寄せることを確実にすると同時に、エサの芯が最後まで残るので明確な食いアタリにつながることにもなるんだ。」
石井のこの言葉を裏付けるように、その後も判で押したように同じナジミ幅をキープする。そして意外に早い生体反応。思いのほかダンゴエサに反応するへら鮒が居るようだ。石井は徐々にエサに手を加えていく。手水と押し練りで開きを抑え、ボソタッチからヤワネバタッチへと移行させるセオリー通りのエサ合わせだ。と、ここでウキの動きにある種の違和感を覚えた。それはウキが立ったところからナジミ始めるまでの時間が長いことと、ナジむ速度そのもののスピードが遅いのだ。それは打ち始めから手を加えたエサにしてからもほとんど変わらない。
「気がついたかい。これも『凄麩』の特徴なんだ。ボソでエアーを充分含んでいるエサが軽くナジミがゆっくりなのは当たり前のこと。ところがこのエサは練っても軽いままの性質を維持し続け、開きも失わないのでウキが立った直後のタメもあるしゆっくりナジむ。このことはエサの存在をへら鮒にアピールするのにとても重要なことなんだ。 現在の両ダンゴでは極端に重いエサにはへら鮒は興味を示さない。軽くネバリのあるエサを如何に持たせて確実にタナに入れるかが大切なんだが、これが意外に難しく、両ダンゴのハードルを高く押し上げてしまっているんだ。」
エサ合わせの結果は直ぐにウキの動きに表れる。アタるタイミングこそ盛期には及ばないものの、ナジミきった直後に「ダッ」と決めて深宙らしい良型が水面を割って出る。そして石井のウキは次第に躍動感を増してくる。
冴えわたる石井のエサ合わせ。そのステップは驚くほど単純明快だ!
最初のエサが使い切る頃、「ちょっと試しにナ」と言ってブレンドパターンIIのエサ作りに取りかかる石井。それは昨シーズンを通して探り当てた自信のブレンドパターンだ。しかし、このエサに替えた途端ウキの動きは収束方向に向かってしまったのだ。手水と押し練りでタッチ調整を試みる石井であったが、このエサが現時点ではへら鮒の気を惹くものでないことは誰の目にも明らかであった。
「このブレンドは盛期向きのエサなので、最初のエサに比べてやや重めでしっかりしたタッチに仕上がるんだ。少しだけナジむスピードが速くなるため、ウキが立った直後のウケが少なくなり、ナジミ際のサワリも出難くなったね。それでもエサの開きは失われないので、ナジミきってからのアタリも期待できるんだ。これが分かれば試行錯誤は完了、次のエサで決めるよ!」
そう言って作り始めた次のエサは、昨年のテストでは浅ダナ両ダンゴ釣りでのベストブレンドだったというもの。石井はこの日のコンディションを見切ったうえで、あえてこのブレンドを選択した。その結果は再び躍動感を取り戻したウキの動きからも見て取れた。
ここまでの一連のプロセスは至って単純明快なものだ。重くしっかりしたエサで反応が弱ければ軽くソフトなタッチに向かえば良く、エサが激しく揉まれてタナまで待たずアタリが出ないときには重くしっかりしたエサにすれば良い。これも「凄麩」のセールスポイントひとつ“ブレンド相手の特徴を生かす応用範囲の広さ”である。それを実践で披露して見せた石井は、さらに最後の詰めへとエサ合わせの舵を切った。
練って戻してまた練って、エサをいじくり回して正解に辿り着け!
エサのポテンシャルを取材スタッフに示すために、ややオーバーアクションのところも見られたが、石井は最後の詰めの作業という段階で、練ったり戻したり、更に基エサを加えてまた練ったりと徹底したタッチの調整に取り組んだ。基本的なブレンドパターンに間違いがないことは、このエサにしてからのウキの動きで証明されている。
石井は「凄麩」に関して、エサ合わせの過程では徹底してエサをいじってみることを推奨する。それは新エサに慣れるためというよりも、むしろどんなに手を加えても基本性能を失わずにパフォーマンスできることを実感してもらうためなのだ。
「正直このエサにコツなんて無いんだよ。強いて言うなら麩の粒子が潰れるとか意識しないで、今まで以上に思い切ってエサをいじってみることだよ。とにかくエサの調整幅は驚くほど広いから、これ以上練ったらダメとかは絶対にない。これまでエサをネバらせ過ぎでダメにしたなんてこともあったかも知れないが、『凄麩』に限っては無駄にすることなく完全に使い切れるはずだよ。そうでなければこのご時世、大袋で販売するなんてできっこない。それだけの自信と覚悟があるという訳さ(笑)。」
取材時の釣果については、石井自身決して満足のいくものではなかったが、本人曰く「かなり真剣にやった」結果、数はそれほど釣れなかったが、セットでも簡単には釣れない状況下に於いての両ダンゴのエサ合わせは見応えがあり、新エサのポテンシャルを実証するには十分であった。
総括
2回の取材を通じて、石井は「凄麩」の基本性能の高さを声高に言い続けた。それは今までの麩エサの常識を覆した究極の麩エサの誕生に関わった担当者の自信の表れだ。そして最後に、読者の皆様には実釣取材時にまさに石井が使ったエサの、水中での状態を捉えた映像を見ていただき、改めてその“凄さ”を実感していただくことにしよう。これこそが今回の取材の総括であり、石井の言葉を裏付ける決定的なシーンであろう。それは石井が当日の決まりパターンとして最後に仕上げたブレンドパターンIIIを、基エサと釣れる状況までに徹底して手を加えたものとに分けて比較した水中でのエサの開き具合のシーン。
見ての通り、両者共に水中に投下した直後から同じような粒子のバラケ具合を見せており、その状態はエサの芯が小さくなって、ハリのフトコロに僅かに残るまで続くのである。まったく手を加えていない基エサと、一方は徹底して練り込んで軟らかく調整したもの。従来の麩エサでは両者が同じ開き方をするなどということは考えられない“非常識”であったが、それがもう直ぐ“常識”となって我々が手にすることができるのだ。 そして更に石井が言っていた無限の可能性にも期待が高まる。その主役は他ならぬ読者諸兄、あなた自身である。それは優れたブレンド性・汎用性から生まれるであろう新たなエサ使いの発見である。お手元に届いたその日から徹底的にいじりまくり、あなたオリジナルのブレンドや使い方を見つけ出し、是非へら鮒釣りの仲間に発信していただくことを期待したい。