稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第67回 麻野 昌佳のチョーチンヒゲトロセット釣り
夏を代表する釣り方と聞いて「ヒゲトロセット釣り」を挙げるアングラーは少なくないだろう。事実、高活性時のへら鮒の動きをコントロールしながら、短バリス特有の水中深く突き刺さるダイレクトなアタリで釣り込む釣趣は、多くのヘラアングラーを魅了する。今回登場いただくこの男、麻野昌佳もこの釣りの虜になったひとり。サンデーアングラーで関西を拠点に活動する麻野にとってのヒゲトロセット釣りは、日曜日の混雑時にも寄せ負けすることなく、確実に釣り込める釣り方としてこの時期なくてはならない必須釣法だ。今シーズンは新エサ「ヒゲトロスペシャル」を手に、さらにパワーアップしたヒゲトロセット釣りを決めまくっていると聞きつけ、急ぎ取材を敢行。トロロとの相性抜群といわれる「とろスイミー」がスパイスとなったバラケと相まって、夏に相応しいホットな釣技が展開された。
奇策は無用!ウキをナジませ、強いアタリを出し続ける麻野流王道アプローチ
今回の取材にあたっては、先頃発売となった「ヒゲトロスペシャル」を使ったヒゲトロセット釣りを見せてくれと伝えただけで、釣り場もタナもサオの長さも一切お任せで臨んだのだが、麻野が指定した大阪府貝塚市にある水藻フィッシングセンターの事務所で、今日はどんな釣りを見せてくれるのか訊ねると、
「ただ数を釣るだけならカッツケが一番でしょうが、ここ(水藻フィッシングセンター)ならどんなヒゲトロセット釣りでも釣れますから、なんなら全部やりましょうか(笑)。」
冗談交じりにこう切り出した麻野だが、それもそのはず。ここは彼のホームグランドであり、自ら講師となって月一レクチャーなども開催している、まさに勝手知ったる我が家のような釣り場なのだ。聞けばへら鮒のコンディションは上々で、浅ダナからチョーチンまでどのタナでも良く釣れているらしい。同行した麻野の友人達からは「麻野さんのカッツケヒゲトロセットは見応えがありますよ!」と勧められたが、
「へら鮒釣りは関東を中心とした全国区の釣りだから、短ザオでのチョーチンヒゲトロセット釣りの方が、参考になることが多いんじゃないですか?それにこの釣りは深くナジんだウキがズバッと水中に突き刺さるような、夏らしい豪快なアタリが魅力ですし、合わせて短バリス特有のダイレクトなウキの動きも見てもらいたいですね。」
厳しい混雑時の釣りを常とするサンデーアングラーである彼のチョーチンヒゲトロセット釣りは奇をてらったところがなく、オーソドックスでありながら、終わってみれば必ず頭ひとつ抜きん出た釣果を叩き出しているといったような、いわば王道的ともいえる盤石の強さがあるという噂も人伝に聞いていたので、そんな釣りなら記者もぜひ見てみたいと思い、ふたつ返事でチョーチンヒゲトロセット釣りをリクエストした。
「現在の釣りは色々やり過ぎて失敗するケースも少なくないようで、無理やり食わせようとして何かに負担をかけるような釣り方では、良い結果に結びつかないように感じます。結局は基本に忠実な釣り方が一番良く釣れるのだと思いますが、無理なく釣ろうというアプローチで臨めば、すべてにおいてストレスフリーの状態が生まれ、なにより自分自身ストレスを感じることがなく、またへら鮒のエサ追いも自然と良くなるのではないでしょうか。」
釣り座に着くなり、迷うことなく規定最短となる7尺を継いだ麻野。エサバッグから「パウダーベイトスーパーセット」「パウダーベイトヘラ」「セット専用バラケ」の3種を取り出すと、この組み合わせが現在関西のヒゲトロセット釣りでは鉄板ブレンドだと言い、今回はさらに味付け(隠し味というかスパイス的な意味合い)で加える「とろスイミー」と日曜日などの混雑時に寄せ負けしないバラケの膨らみとボソ感を増すための「GTS」を加えたスペシャルブレンドを手際よく仕上げた。もちろんくわせは「ヒゲトロスペシャル」。いよいよスペシャルバラケ&スペシャルくわせの相乗効果で魅せる麻野流王道チョーチンヒゲトロセット釣りのスタートだ。
使用タックル
●サオ
シマノ 朱紋峰「神威」7尺
●ミチイト
ダン セラミックへら名人0.8号
●ハリス
上=ダン へら名人「鑠」ハリス0.5号-8cm、下=ダン へら名人「鑠」ハリス0.5号-12~15cm(1cm単位で調整)
●ハリ
上=オーナー「バラサ」9号、下=オーナー「とろ掛」6号→のちにがまかつ「カイト」9号
●ウキ
①カヤ製パイプトップウキ
【1.4mm径スローテーパーパイプトップ11.0cm/6.2mm径カヤボディ8.0cm/ 1.2mm径カーボン足6.5cm/オモリ負荷量≒1.2g】
※エサ落ち目盛りは全9目盛り中4目盛り出し(トップのほぼ中間)
②羽根製PCムクトップウキ
【1.6mm径スローテーパーPCムクトップ12.5cm/ 6.0mm径二枚合わせ羽根ボディ8.0cm/1.0mm径カーボン足7.0cm/ オモリ負荷量≒1.35g】
※エサ落ち目盛りは全10目盛り中4目盛り出し(トップのほぼ中間)
③カヤ製パイプトップウキ
【1.6-1.0mm径テーパーパイプトップ12.0cm/ 6.2mm径カヤボディ8.0cm/ 1.2mm径カーボン足7.0cm/オモリ負荷量≒1.6g】
※エサ落ち目盛りは全8目盛り中4目盛り出し(トップのほぼ中間)
●ウキゴム
オーナー浮子ベスト(2.0号)
●ウキ止め
木綿糸
●オモリ
ウレタンチューブ(内径0.3mm)装着+0.25mm板オモリ1点巻き
●ジョイント
極小サルカン
タックルセッティングのポイント
■サオ
釣り場規定最短尺で決まることが圧倒的に多いと言い、この日も迷わず7尺を継いだ麻野。ただでさえタナが上がりがちな夏場においては、無理に深めのタナを狙うことはストレス以外の何物でもない。
■ミチイト
近年の傾向は明らかに太仕掛けになっているという。これはかつてのように繊細さを競った頃の釣りとは違い、多少太くてもへら鮒の食いにほとんど影響が無いことを意味するもので、へら鮒を掛けたときよりも、むしろ玉網に収めてから切れることが多かった過去の釣りとは大きく様変わりしている。現在麻野が基準としている0.5号というハリスの太さから逆算すると、ミチイトは0.8では細いくらいかも知れないと言い、釣り場によってはさらに太い仕掛けの方がトラブルも少なくストレスが掛からない。
■ハリス
基本セッティングは別図の通りで、上下共に太さは0.5号、長さは上8cm/下15cmを基本とする。アジャスティングをするうえでの判断基準はウキの動きとヒット率。当然ながら動きが多過ぎるときや、ヒット率が低くカラツンが多発するようなときは詰めていくが、通常1cm単位を基本とし、今回も14cm→13cm→12cmと3段階に詰めたところで、思ったほどの改善効果が見られなかったことから一旦ハリスを元に戻し、ウキの交換(浮力アップ)にて動きを抑制したうえで、改めてハリスワークに取り掛かるという手順で正解へと導いた。
■ハリ
今回の取材では、ハリの交換が見事に決まっていた。元来サンデーアングラーの麻野は、この日も混雑したやや食い渋り状態を想定してライトなセッティングで入ったが、想定以上にへら鮒の活性が高く、そのためハリスを詰めたりウキをサイズアップさせたりと、途中で徐々に強めに変えて行ったのだが、最後の決め手となったのはハリスを元の長さに戻したうえで、くわせのハリを「トロ掛け」6号から「カイト」9号に替えたことであった。これにより強烈なアオリにも負けず確実にタナに入ってアタるという、目指すべき王道ヒゲトロセット釣りが完成したのである。
■ウキ
この日の釣りでは、へら鮒の寄りが増すに従いウキがナジミ難くなっていったのだが、バラケのタッチを変えたりサイズを変えるなどの対策は最小限に止め、ウキの浮力(オモリ負荷量)とタイプを変えることで、無理なくエサをタナに送り込んでいたのが印象的だった。実際日曜日の釣りでは小さくすることはあってもサイズアップさせることは少なく、ましてや今回のように2段階アップは珍しいというが、エサをストレスなくタナに送り込むには極めて有効な手段であり、ウキを軸にトータルバランスのアジャスティングを行う、麻野の真骨頂を垣間見ることができた。
麻野流チョーチンヒゲトロセット釣りのキモ 其の一:バラケの軸は3本柱にあり!
この釣りの主役はトロロだが、それを生かすも殺すもバラケ次第であることは言うまでもない。バラケ作りの項でも触れているが、麻野が絶大な信頼を寄せているのが「パウダーベイトスーパーセット」、「パウダーベイトヘラ」、「セット専用バラケ」の3本柱。取り分けへら鮒の食いが良いときに決まるというダンゴタッチのバラケには、この3種類だけで臨むのが麻野流で、そのときには1カップ(200cc)を山盛りで計量するのがポイントだという。
「関東では『バラケマッハ』を主体にしたバラケが流行っているようですが、関西ではこの3つを合わせたバラケが王道パターンなのです。今回はさらにこれに『とろスイミー』を味付け(スパイス的な意味合い)とし、『GTS』をボソッ気を増す役割としてブレンドに加えましたが、これは集魚性を意識したもので、混雑時にウキを動かしながらしっかりタナを作って釣り込むのに適しています。このふたつのパターンを手の内に入れておけば、大抵の状況には対応できますので、エサには迷わず後はタックルとのマッチングを考慮しながら、トータルバランスを煮詰めて行けば良いだけですから、本当にストレスを感じないでチョーチンヒゲトロセット釣りが楽しめますよ。」
ブレンドには迷わず、しかもタッチの調整は手水と撹拌のみというシンプルな対応を旨とする麻野流のアプローチは、とかく銘柄やブレンドに迷いがちな昨今のへらアングラーには、大いに手本とすべき点があるだろう。
麻野流チョーチンヒゲトロセット釣りのキモ 其の二:ウキを軸としたタックル調整でトータルバランスを煮詰める
簡単にこの日の麻野の釣りを振り返ってみよう。午前7時のスタートフィッシング直後にウキは動きだし、間もなく強めのアタリでポツポツと釣れ始めた。しかしウキの動き自体は不安定で、ナジんだりナジまなかったり、また良いアタリでのスレや空振りが目立っていた。これに対して麻野は小分けしたバラケに少量の手水を加え、タッチをシットリ方向へと手直しした。すると徐々にウキの動きは落ち着きを見せ始め、トップが深くナジむ投が明らかに増えだしたのだ。さらに麻野は空振りの原因をトロロのあおられ過ぎによるものと判断し、1cm単位で下ハリスを詰める対策に着手したが、効果はそれほど見られなかった。そこでウキをオモリ負荷量の大きなPCムクトップタイプに交換し、エサをストレスなくタナに入れてエサを安定させる作戦に打って出た。ここまでに要した時間は僅かに30分と、極めて早い見極めと実行力に驚かされたが、ウキのオモリ合わせはあらかじめ済ませてあることに加え、麻野にとってはいつもの手順なので、迷いや躊躇は一切見られない。この対応によりさらに釣況は上向いたが、まだ良いアタリでのカラツンが多く、下バリをさらに1cmずつ短くして最終的には12cmまで詰めてみた。しかし、それでも上バリへのヒット率が高いことにセッティングが完全に合っていないことを感じた麻野は、約2時間の実釣から得た情報を元にさらにウキをサイズアップ。加えてトロロの動きを安定させる方法としてハリスを短くするのではなく、ハリを変えサイズアップすることに活路を求めた。するとこれによって明らかにウキがナジミやすくなり、下バリへのヒット率が急上昇。ウキが深くナジんだところで出る、ほぼ理想的といえる強いアタリで釣れ始めると、ようやく麻野の顔に安堵の表情が浮かんだ。
「ある程度セッティングの方向性が決まりましたね。混雑してやや食い渋った状況ではここまで強めのセッティングにすることはありませんが、強くするにも弱くするにも、そのプロセスには変わりはなく、ウキの動きから何が必要なのかを読み解けば必ず正解に近づけるはずです。基本的な組み立て方はこんな感じですが、ウキを軸にしたタックル調整と、手水と撹拌によるシンプルなバラケ調整があれば、あとは『ヒゲトロスペシャル』が確実にハリ持ちしているという安心感のなかで自信を持って釣り込めますね。」
麻野流チョーチンヒゲトロセット釣りのキモ 其の三:水中に突き刺さるような、鋭く強いアタリがチョーチンヒゲトロセット釣りの醍醐味!
次第に釣りが決まってくると、それまで上バリのバラケを食うことが多かったものが、そのほとんどが下バリのトロロを食うようになるプロセスは見応えがあり、徐々に正解へ向かおうとする、地に足の着いた麻野らしい盤石の組み立て方であった。アタリの取り方も然り、食っていそうなアタリでも100%の自信がなければ見送り、激しく上下左右に揉まれながらも深くナジんだトップが水中深く突き刺さるような鋭く強いアタリでなければ決して手を出さない。
「ズバッと水中に消えていく豪快なアタリはこの釣り方の醍醐味です。これを見たくてチョーチンヒゲトロセット釣りをやっているみたいなものですから(笑)。実はこの強いアタリは無理矢理出るように仕向けているのではなく、エサ・タックル・アプローチ等すべてのトータルバランスが決まれば自然とこういったアタリばかりが続くようになるので、釣りが合っているか否かの判断材料にもなりますね。」
安定した強いアタリが出ないときはまだ釣りが決まっていないことを意味し、何かしら改善の余地があることを示しているという訳だが、麻野の場合バラケ&くわせ(トロロ)はほぼ迷うことなく決まっているので、あとはタックルの微調整次第。こうしたシンプルな組み立て方こそ、常に安定した釣果を得るためのコツなのだと改めて思い知らされた取材であった。
総括
特異なエサ使いや奇抜なタックルセッティングでたくさん釣る名手は多いが、麻野流の基本コンセプトはあくまでストレスフリーの骨太の釣りだ。もちろんストレスを感じない釣りとはいっても決して手を抜くという意味ではないが、気持ち良く無理なく釣りが楽しめ、おまけに結果(好釣果)までついてくるというのであれば、これに越したことは無いだろう。
「釣れる釣り方とは、結局のところアングラー自身がストレスを感じない楽な釣り方なのです。確かに誰にも真似のできないような複雑かつ高度なテクニックを駆使して釣る人もいますが、恐らく釣りが終わった後にはドッと疲れが出るようなストレスを感じているのではないでしょうか。釣りのスタイルは人それぞれですが、無理せず楽に楽しめる方が長続きしますし、特にプレッシャーのかかる日曜日には比較的アタリの出しやすい釣り方を選択することが一番ですね。そうした意味ではチョーチンヒゲトロセット釣りなどはお勧めできる釣り方ですし、今シーズンは『ヒゲトロスペシャル』もありますので、より一層ストレスのないへら鮒釣りが楽しめると思いますよ。」
自身定期的にへら鮒釣り講習会を行っているなかで、最も大切なことはその人のスタイルに合った釣り方を基本に教えることであると断言する麻野。教える側が理想とする釣り方を無理に押し付けることは受講者にとっては過大なストレスであり、将来へら鮒釣りを良き趣味として長く楽しんでもらうためには、上達するプロセスは人それぞれ異なって当たり前だということだが、この麻野の考え方には共感させられるところがあり、多くの指導者にも考えていただきたいところでもある。是非皆さんもどんな使い方でも楽に釣れる「ヒゲトロスペシャル」と共に、お好みのスタイルでストレスフリーのへら鮒釣りを楽しんでみてはいかがであろうか?