稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第72回 伊藤さとしの置きバラケの段底
人は時としてセオリーという固定観念に囚われ、決められた枠からはみ出すことを思い止まったり、自由な発想を無意識に拒んだりすることがある。確かにセオリーを踏襲することは大切なことであるが、それゆえに袋小路に追い込まれることも少なくない。そんなとき少し発想を変えるだけで大きく道が開けることがある。今回はそんな新発想から生み出された一風変わった段差の底釣り(以下、段底)を紹介したい。アングラーは自他共に認める段底の名手マルキユーインストラクター伊藤さとし。初めにお断りしておくが、今回取り上げた新釣法は伊藤が編み出した新たなアプローチではなく、彼の良く知るアングラーが極めて高い実績を残していることから、伊藤自身が是非読者諸兄に紹介したいと、そのシステムを分かりやすく紹介するものだ。言われてみればなるほどと思う新発想の段底必釣法。この冬一番ホットな釣技を見逃すな!
バラケを底に着ける置きバラケの段底は、懐かしの片ズラシの底釣りの復刻版!?
段底のアプローチのセオリーは、あくまで深くナジませたバラケを底付近の宙層で広範囲に開かせることでへら鮒を集め、バラケが上バリから完全に抜けたところで底に着いたくわせエサを食わせるというものと前置きしながら、伊藤はこう語り始めた。
「セオリー通り忠実に組み立てていても、段底には必ずウキの動きが緩慢になる時間帯が訪れる。いわゆる〝穴〟が開く時間帯だね。僕はこれを『まったりした時合い』と呼んでいるが、こうした状態に陥ってしまうと、アタリを復活させることが極めて困難になる。このときのへら鮒はエサに対してのレスポンスが極端に低下してしまうので、どんなに良いバラケを上手く使えたとしても、それまでターゲットとしていた宙・底両方のへら鮒を再び底へと集めて食わせることは難しい。そこであえてターゲットを底に着いたへら鮒のみに絞ることで、アタリを復活させようというのが今回紹介する釣り方なんだ。
その仕組みを簡単に言ってしまうと、本来宙層でバラケさせるべき上バリのバラケエサを底までほとんどバラケさせずに着底させ、開かせるというよりも塊のまま底に置いてくるイメージで上バリから抜き(どちらかといえばウキの浮力で引き上げられて上バリが抜けるイメージ)、くわせエサだけになった状態でアタリを待つ釣り方なんだ。ハリス段差はウキのトップの長さの関係で20cm前後になってしまうが、見方を変えれば、かつての片ズラシの底釣り(ハリス段差は5~6cmで、空バリ状態で下バリのみ底に着くセッティング)の、進歩形の復刻版ともいえるかも知れないね。」
机上の空論ではなく、可能な限り実戦形式でその効果のほどを見て欲しいという伊藤のリクエストに従い、まずは今シーズンお勧めのセッティングによる従来型の段底でスタートし、伊藤の言う「まったり時合い」となったところで釣り方を変えるという流れで進んだ今回の取材。100%とまではいかないまでも、その効果のほどを見せつけた「置きバラケの段底」は、今後マストになりうる可能性を秘めた新たなアプローチであることを実感することができた。
使用タックル
●サオ
シマノ 特作「天道」12尺(サオ一杯で底が取れる長さを選択するのが基本)
●ミチイト
東レ『将鱗へらスーパープロPLUS』0.6号
●ハリス
東レ『将鱗へらスーパープロPLUSハリス』 上0.35号-32cm、下0.35号-50cm
●ハリ
上=オーナーばり「バラサ」4号、 下=オーナーばり「バラサ」4号(後にバラサ2号)
●ウキ
「SATTO」イエローグリーン/グリーンラベル10番
【0.8mm径グラスムクトップ21.5cm/6.5mm径カヤボディ10.0cm/ 1.2mm径カーボン足9.0cm/オモリ負荷量≒2.1g ※エサ落ち目盛りは全11目盛り中7目盛り出し】
●ウキゴム
オーナーばり「浮子ベスト」2.0mm
●ウキ止め
オーナーばり 「へらテーパーストッパー」1.5-S(下側に刺繍糸で補強)
●オモリ
0.4mm厚板オモリ(ウレタンチューブ装着)
●ジョイント
オーナーばりダブルサルカンダルマ型22号
タックルセッティングのポイント
サオ
ジョイント部が竿尻に位置するように調整したうえで、穂先一杯(余っても10cm程度)のところにウキが位置する長さの竿を選ぶのが基本。これによりタナ取りの正確性・エサ打ちのコントロール精度・アワセやすさが確保されると共に、ラインテンションを掛けるための伊藤流の横サソイをやりやすくしている。
ミチイト
厳寒期の吸い込みが弱くなったへら鮒の食いアタリは極めて小さい。それを確実に伝えるためには繊細さは必要不可欠な要素である。取材時に使用した0.6号は伊藤の厳寒期における標準仕様。今回はしなやかでも張りのあるナイロンラインを使い、しっかりしたラインテンションを確保した。
ハリス
ノーマル段底での上ハリスの長さは数年前まで15cmを標準としていた伊藤だが、近年その太さと長さはよりデリケートなバラケのコントロールを可能にするため0.5号-10cmへと変化した。一方で置きバラケの段底では下バリ50cmという長さに加え、使用するウキのトップの長さとの関係から今回の長さ(32cm)に落ち着いたが、さらに長いトップのウキを使うことでハリス段差を広げることが可能になる。これは一例であるが、仮に30cmのトップであれば概ね27~28cmまでの段差が可能であるが、現時点ではそこまで段差を広げるメリットは感じられないという。
ハリ
いずれのアプローチにおいても前述のセッティングが標準仕様となる。基本的に上バリは固定するが、これはそれぞれのアプローチの狙いが明確であるためだ。ちなみにノーマル段底ではバラケを確実に持たせるため大きめの「バラサ」6号とし、エサ付けの際にもハリ先から丸めたエサの内部を貫通させるように突き通すことが肝心だと言う。また置きバラケの段底では着底させたバラケからハリが抜けやすくなるよう、バラケのサイズ(直径15mm程度)を考慮して「バラサ」4号を基本とし、エサ付けの際にはハリを割り入れるように押し込み、チモト部分の押さえ方も甘めにしておくことがキモとなる。
下バリはくわせの種類というよりも、くわせの安定度を考慮した選択を旨としており、今回の例でみればノーマルの段底ではへら鮒の寄りが増して動きが激しくなった時点で「バラサ」3号から「タクマ」5号にすることでくわせを安定させている。一方置きバラケの段底ではアタリが出難くなった時点で「バラサ」4号から同2号にサイズダウンさせることで、やや食いが渋くなった時間帯のへら鮒の反応を引き出した。
ウキ
今回使用したウキ「SATTO(サット)」は、伊藤さとしフルプロデュースの新作ウキである。いずれのアプローチにおいても段底専用ウキとして設計されたものを使った訳ではないが、実際に釣りの組み立て方を見ていると、浮力(オモリ負荷量)はもちろんのこと、すべてのスペックが理にかなっていることが分かる。取り分け置きバラケの段底では、浮力・トップの素材(グラスムク)・トップの長さが絶妙のバランスで取れているため、バラケが着底した瞬間の動きから戻しのタイミング、さらには最後の食いアタリまで、初めてこの釣り方を見る者にも十分理解できる動きが表現されていた。
なかでも重要なのが浮力である。これは単にオモリ負荷量というのではなく、復元力というかウキを戻す力と言い換えられる。つまり浮力が不足したものではバラケからハリが抜け難くなり、アタリを待つための臨戦態勢に入るのが遅れてしまったり、反対に強過ぎるとバラケが着底し難くなり、小さなバラケでは浮力によって底に着かなくなってしまい、この釣りを成立させること自体できなくなってしまうのだ。またトップの長さも重要で、先端からエサ落ち目盛りまでの間隔(A)がハリス段差(B)よりも広くなくてはこの釣りは成立し難くなる。つまり(A)>(B)となっていないとバラケが着底するたびにトップが沈没してしまうので、結果として非常に釣り難い状態となってしまうのだ。動画で見られるようにトップ先端1目盛りが水面上に出て静止するためには、仮にハリス段差が20cmであれば、トップ付け根からエサ落ち目盛りまでが3cm、トップ先端1目盛りの長さが2cmであれば、理論的には25cmのトップ長が必要になるという訳である。このタイプはいわゆるロングトップやセミロングトップと言われるものだが、一般的な底釣りウキには少ないタイプなので、チョーチン釣り用のウキでの代用をお勧めしたい。
取材時の釣りの流れ
まずはセオリー通りのノーマル段底でスタートした伊藤。ご存知の読者も多いと思うが、取材フィールドとして伊藤が指定した武蔵の池は〝段底の聖地〟ともいえる釣り場である。ここで釣れれば段底のテクニックも一級品とまで言われる同池では、常に段底で攻められ続けているへら鮒が多いため、一筋縄ではいかない難しさがある。通い慣れた伊藤をしても「簡単に釣れると思って舐めてかかると痛い目に会うよ」と言うくらい高難度の釣り場なのである。ヘラアングラーの面白いところは、こうして難しいと言われれば言われるほどその釣り方にのめり込む傾向があり、伊藤自身もそんなマニアックなアングラーのひとりなのだが、人一倍研究熱心な彼は人の釣りをすべて吸収したうえで自らのDNAと融合させてしまうという特技を持っている。今回取り上げた置きバラケの段底もそうした経緯を辿った釣り方である。
さて伊藤のノーマル段底も完成度の高さではピカイチだが、この日はウキの動き出しこそ早かったものの、明確な食いアタリが出ないまま数時間が経過してしまった。結論から述べてしまうと、この難時合を攻略したのは「バラケの持たせ加減」と「くわせのローテーション」であった。まずバラケは「段底」の特性を生かしたまとまり感のあるしっとりタッチに活路を見出すと、「今日は深くナジませた方がアタリが出るようだ」と当日の釣況を見切った。そしてトップの目盛りにして僅か1目盛り多くナジませることでへら鮒をくわせエサへと導き、少しでも食うことを躊躇したそぶりを見せると間髪入れずにくわせエサを使い分け、漫然としていてはアタリさえ出せないような状況のなか、コンスタントに数を伸ばして行ったのである。
そして、やがて伊藤の予言(?)どおりに徐々にウキの動きが緩慢になると「まったり時合い」となった頃合いを見計らって置きバラケの段底に切り替え、中だるみさせることなく手堅くまとめたのだ。ノーマル段底については以前にも伊藤流の段底で紹介しているので、今回は当日の釣りのターニングポイントになった置きバラケの段底について詳しく見ていくことにしよう。
伊藤流置きバラケの段底のキモ 其の一:下バリ主導のタナ(下ハリスが弛まずにくわせが着底するタナ)が基本
いかなる底釣りであっても、まずは正確なタナ取りから始めることが肝心である。その手順を簡単にまとめると以下のとおりで、途中まではノーマル段底も置きバラケの段底も同じであるが、くわせの着底状態を決定づけるタナのズラシ加減に違いがある点に着目したい。
●手順①「宙でのエサ落ち目盛り(空バリ状態)を決める」
ハリが底に着かない宙でのエサ落ち目盛りをトップ先端7目盛り出しとし、くわせエサを付けた下バリが底に着くと8目盛り目の赤が水面上に出るようにセッティングするが、いわゆるこれが“勝負目盛り”となる。
●手順②「くわせエサの重さを確認する」
くわせエサによって若干の重さの違いがあるので、まずはその差を確認しておくことが肝心だ。ちなみに今回使用したPCムクトップウキでは「魚信」で約1目盛り強、「力玉ハードⅡ」や「感嘆(『つなぎグルテン』入り)」では1目盛りほどのナジミ幅を示した。
●手順③「タナ取りゴムを下バリに付けて水深を計る」
粘土タイプの小さなタナ取りゴムを使い、ウキの立つ位置に落とし込んだらトップ先端が水面上に出るようウキ下を調整。一旦その位置に水深の目印となるトンボを合わせ、エサ打ちポイント周辺40~50cm四方の水深を合わせて計測して底の凸凹の状態を把握しておく。そして手順①で決めたエサ落ち目盛りがトンボの位置になるようウキを動かせば基準となる下バリトントンのタナとなる。
●手順④「くわせを確実に着底させるため、若干ズラシ気味のタナに調整する」
ノーマルの段底では3目盛り(約4cm)ズラシ、置きバラケの段底ではほぼそのまま下バリトントンのタナ~1目盛り(約1cm)程度ズラして打ち始める。
●手順⑤「くわせだけを下バリに付けて打ち込み、勝負目盛りが水面上に出ることを確認する」
このとき勝負目盛りが水面上に出れば、くわせが着底している証なのでそのままエサ打ちを開始するが、もし出ない場合はさらにズラシ幅を多くして勝負目盛りを確実に出すように調整する。その際誤差が大きい場合はタナ取りを初めからやり直すことをお勧めしたい。
伊藤流置きバラケの段底のキモ 其の二:システム(バラケを底に置いてくる仕組み)を理解し無駄なく底に集魚せよ!
従来型のノーマル段底とではシステムが異なるので、まずはその相違点について理解を深めておこう。見た目ではアタリを除くウキの動きに決定的な違いがあるので、この点に着目して動画を見ていただきたい。
●手順①「バラケをつけて落とし込みでエサを打ち込む」
着底したバラケから上バリが抜けやすいよう、押し込むようにハリに埋め込みチモト部分をやや開いたままにしておくことがポイント。もちろん落下中に抜け落ちては意味が無いので、その辺りの加減にコツが必要だ。またバラケの大きさ(重さ)はトップが完全に沈没するサイズとすることが必須条件。ウキの浮力が勝りバラケが着底しない状態では、単なる段差の狭いノーマル段底となってしまうので注意が必要だ。
●手順②「ウキがス~とナジミきり、バラケが着底した瞬間に〝トン〟という感じでトップの先端が水面ギリギリで止まる」
タナ取りの際にタナ取りゴムが着底したときと同じような感じでウキの沈下が止まるのが動画でも分かるはずだが、この動きが再現できれば上バリのバラケは確実に底に着いており、エサ付けのサイズ・タナ設定共にほぼ理想的なセッティングといえるだろう。
●手順③「バラケが徐々に膨らむと、ウキの浮力によってハリが引き抜かれウキが浮上する」
トップ先端1目盛り残しで静止したウキが徐々に戻し始め、一気に勝負目盛りが出るまで戻るのが理想的(バラケが塊のままハリが抜けた証拠)だが、上バリにバラケの一部が残ったり、底の状態によってはくわせエサが凹みに埋没したりしてしまうと、ウキの戻りが段階的になったりエサ落ち目盛りまで完全に戻しきらないことがある。そうしたケースでは縦サソイ(くわせの置き直し)を加えるなどして勝負目盛りを水面上に出す必要があるが、サワリが認められるときは振幅の小さなロッドアクションでラインテンションを断続的にかけながらアタリを待つ。
●手順④「勝負目盛りが出てからのアタリを待つ」
アタリの出方はノーマルの段底との違いは見られないが、ズラシ幅が少なく常に強めのラインテンションがかかっているためか、食いアタリは強くハッキリしたものが多いように感じた。ここでもサワリが長くアタリが出難いときは横方向への小さなサソイを加え、緩みがちなラインに張りを持たせた状態を維持しながらアタリを待つのが伊藤流のアレンジだ。
以上の手順でエサ打ちを繰り返していくと、バラけたというよりも上バリから抜けたバラケの塊(エサ玉)が底に敷き詰められたような状態(あくまで筆者のイメージだが…)が出来上がり、それらに誘引されたへら鮒が、それらに紛れ込んでいるくわせを口にするというシステムだが、明らかにノーマル段底よりもバラケの粒子の拡散範囲は狭いものと推察される。しかしバラケの濃度で比較するとこちらの方が圧倒的に濃いことは容易に想像がつくので、ノーマル段底での広範囲に散らばったバラケの粒子に比べると、その存在感は大きなものとしてへら鮒には感じられるのかも知れない。それゆえにボ~ッとしてしまった時合い下において再び刺激を与え、摂餌を促すには十分な効果があるという訳だ。
ちなみに伊藤は置きバラケの段底が有効な場面として、先に述べた「まったり時合い」以外としては、ノーマル段底では上から降り注ぐバラケの粒子によって底から離れ、どうしても上っ調子になりがちなときや、大型べらが地底を這うように回遊して来る釣り場では効果絶大で、ときとしてノーマル段底では太刀打ちできないほどの釣果を叩き出すことも決して珍しいことではないと言う。また段底のウィークポイントである流れに対しては、バラケが底から離れず無駄に流されないシステムなので、かなりのリカバリー効果が期待できるものと思われる。
伊藤流置きバラケの段底のキモ 其の三:100%ウキが戻してからのアタリに狙いを絞り込め!
近年バラケが上バリに残っている状態で出るアタリにアワせる段底が増えており、伊藤自身もノーマル段底ではそうした釣り方にも積極的にチャレンジしているが、この釣り方に関してはバラケのある位置関係からもバラケにアタって出るアタリと、下バリのくわせを食いに来たアタリとの識別を確実なものにするため、100%ウキが戻して勝負目盛りが出てからのアタリに狙いを絞り込むことが肝心であると言う。
「バラケから上バリが抜けて完全にウキが戻した後のアタリといっても、タイミング的には概ねふたつのパターンに大別されるので、無理な早アワセや無駄にアタリを待つことがないようにすることも大切だね。」
と言う伊藤が狙うアタリのパターンを以下に紹介する。
●ヒットパターン①【勝負目盛りが出て間もなくのサワリに連動するアタリ】
このタイミングで出るアタリが理想形であり、置きバラケの段底に限らず基本となる食いアタリである。勝負目盛りにこだわる理由はただひとつ。くわせが地底に着いていることを担保するものだからに他ならない。このタイミングでくわせが安定した状態であればヒット率は高くなり、折角のチャンスにも関わらず不安定な地底に着底してしまったときや、折り悪くへら鮒の動きによってエサがあおられてしまうと食い損なうことになってしまい、カラツンやスレの原因となってしまう。へら鮒自体のコンディションが良いときは自然とこのタイミングのアタリが多くなるが、食いが悪いときやエサを含めたセッティングにズレがあるときは遅くなるので、アタリが出難かったりアタるタイミングが遅いときはセッティングを見直すことも必要である。
●ヒットパターン②【勝負目盛りが出てからの横サソイ中のアタリ】
先にも述べたが、伊藤のサソイは横サソイを旨としている。それも単なる横サソイではなく、エサ打ち点を正面やや右側に置き、竿掛けに掛けたままのロッド先端を左に小さく降ることでラインテンションを断続的に掛け続ける方法である。実際くわせ自体は動いていないと伊藤は言うが、ラインが弛んでしまうと、ただでさえ小さな厳寒期の食いアタリがウキに伝わり難くなってしまうので、ミチイトだけではなくハリスも含めたラインテンションをイメージし、常に弛まないよう、ときに大きくときに小さくテンションを掛け続け、数少ないヒットチャンスを逃さないようにしている。
総括
置きバラケの段底は、見た目にはそのシステムの緻密さが際立つが、へら鮒が寄り切ったときの時合いの崩れ難さ・安定感は、近年稀に見る厳寒期のニューウェーブであることに間違いない。伊藤はそれを支えているのが、底付近のへら鮒を寄せ、摂餌を促す力に秀でた「粒戦細粒」と「ダンゴの底釣り夏」の成せる業だと言うが、記者はさらにリニューアルされた「段底」の力に負うところも大なのではないかと推察する。元来ノーマルの段底で使用するバラケを想定して生まれたエサであるため抜けの良さには定評があるが、さらにまとまり感が増しエサ付けしやすくなった現在の「段底」は、底にバラケの大半を置いてくる(残してくる)この釣りのシステムに無くてはならないキーエサであることに間違いはないだろう。
「システム的には昔からある片ズラシの底釣りなんだけれど、ウキに工夫を凝らすことでハリス段差を広く取ることが可能になり、さらにバラケエサに使った各種麩材やペレット類の進歩が、かつての片ズラシの底釣りとは一線を画する新たな釣り方を生み出したんじゃないかな。僕はまだ『まったり時合い』を打開するときに使うに止まっているが、この釣りを極めている人達のなかにはノーマルの段底では到底太刀打ちできないような釣果を叩き出すツワモノもいるんだ。でもまだまだブラッシュアップできる部分もあるし、それだけに無限の可能性を秘めているという意味では、今後大ブレークする可能性もあるんじゃないかな。これをきっかけに是非皆にも試してみて欲しい釣り方だね。」